イノベーションで切りひらく未来 ―― 多様性が生み出す新たな価値 ――
創業以来、その製品や技術で社会インフラを支え続けてきた明電舎。「より豊かな未来をひらく」という企業使命をこれからも実現し続けていくために、重要な役割を担うのが研究開発だ。その最前線で日々奮闘する社員へのインタビューを通して、明電舎の技術の根幹をなす研究開発の意義と目指す将来のビジョンに迫る。
ここに掲載のコンテンツは、日経ビジネス電子版Specialで2020年11月~2021年3月まで掲載した広告特集「電気よ、動詞になれ。より豊かな未来の実現に向けて」の転載です。
-
常務執行役員
研究開発本部長鈴木 雅彦 -
研究開発本部
開発統括部長佐藤 利晴 -
研究開発本部
基盤技術研究所長小倉 和也 -
研究開発本部
製品技術研究所長堤 裕彦 -
明電ナノプロセス・イノベーション
取締役社長髙田 壽士
「私たち研究開発本部の役割は、“要素技術の研究”や“新技術の開発”を通して、当社の事業戦略を“技術的”に推進することです」
明電舎における研究開発の位置づけについて、常務執行役員で研究開発本部長の鈴木はこう説明する。
「技術と日々向き合うことを通して、お客様の課題解決や複雑化する社会課題にソリューションを提供する。そのために私たちが大切にしているキーワードがあります。それは“イノベーション”と“多様性”です」
製品化に立ちはだかる壁を
要素技術で乗り越えろ
「私たち基盤技術研究所のミッションは、要素技術の開発を通じて既存事業の幅を広げ、新たな市場への挑戦を後押しすることです」。基盤技術研究所長の小倉は、インフラ用高速モータの開発を例に説明を始めた。
「当社の祖業でもあるモータは汎用市場での競争が激しい。ですが機器の省エネルギー、小型化の要求が高い高速モータ市場ならば当社の強みが生かせることが分かり、事業部での開発が始まりました。モータを高速回転させようとすると、大きな遠心力によって回転子に貼り付けた磁石がはがれて飛散してしまいます。飛散防止のためには高強度材が必要ということでCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic:炭素繊維強化プラスチック)の適用を考えたのですが、CFRPは複合材料である上に当社としても初めて扱う素材でした。そこで基盤技術研究所では強度解析技術や経年劣化の評価手法を確立し、CFRPの製品適用における妥当性を裏付けることで実用化につなげたのです」
この要素技術確立によって、明電舎は高効率な高速PMモータのラインナップに成功。現在は国内外のプラントに納入を開始している。
また、幅広い分野にまたがった技術やノウハウを応用することで新たな製品開発につながった事例もある。その一つが冷陰極X線管だ。
「重電機器である真空インタラプタの製造を通して当社が半世紀以上にわたり磨き上げてきた真空技術を応用し、さらに性能を安定させる製造技術を新たに開発、それらを掛け合わせることで製品化を実現しました。イノベーションは、必ずしも新しい技術だけで生み出されるわけではありません。従来の技術を応用することで実現できることもあるのです」(小倉)
冷陰極X線管の製品化により、明電舎は安心・安全な社会の実現に向けて、セキュリティ市場やインフラ設備の非破壊検査などへの参入を目指す。
新製品開発の先に
社会課題解決の糸口をつかめ
一方で、製品開発を通して社会課題解決に臨むのは製品技術研究所だ。
「気候変動対策のカギを握る再生可能エネルギー。実はその普及には大きな課題があります」。製品技術研究所長の堤は、地球規模で深刻化する環境問題への取り組みについて切り出した。
「電力系統の事故や急激な需要変動などが起こると、系統の周波数が大幅に低下することで大規模停電(ブラックアウト)が発生します。タービン発電機を使った従来の発電システムは変動する周波数を維持しようとする力(慣性力)を有していますが、太陽光などの再エネ発電にはこの慣性力がありません。そのため、再エネ発電の比率を増やしていくと、周波数変動が起こった際に耐えきれず、停電につながる可能性が高くなってしまいます。そこでタービン発電機のように周波数を安定させる役割を果たす慣性力インバータ(仮想同期発電機)を開発し、系統の安定性を維持することで再エネ発電を増やせるようにしたのです」
慣性力インバータ製品化の過程には明電舎の強みが存分に生かされているという。
「慣性力インバータには、太陽光発電システムや無停電電源装置(UPS)などのインバータ技術に加え、発電機や電力系統保護などの当社事業のノウハウを掛け合わせて新たな技術を確立しました。当社の強みである技術の多様性がなければ、製品化は実現できませんでした」
現在は小規模電力系統(マイクログリッド)における実証実験を通して、さらなる精度向上を目指している。
さらに新製品開発を通して、未来のモビリティー社会の実現にも取り組んでいるという。
「EV評価試験のために、あたかも本物のバッテリから電源供給しているような状況を模擬的に作り出す装置、バッテリシミュレータを開発しました。社内のさまざまなシーズを横断的につなぎ合わせることで新技術を確立し、事業部での製品開発を後押ししました。お客様の高い要求に応えるため、さらに大容量・高応答・高精度のシミュレータを目指して、研究を続けていきます」(堤)
多岐にわたる事業で培ったノウハウや技術を組み合わせ、新たなイノベーションを起こしていくことで、さまざまなニーズに柔軟に対応できるのが明電舎の研究開発の大きな強みといえそうだ。
オープンイノベーションでつむぐ
シーズとニーズの結節点
近年、企業の研究開発においてあらゆるソリューションを自社のみで提供することが難しくなる中、外部の企業や組織とのつながりで新たな価値を生み出す試み、“オープンイノベーション”に注目が集まっている。
「半導体の製造プロセスに関わる重要な要素技術として20年以上前から取り組んできたピュアオゾン発生の技術を応用し、さまざまな分野の成膜※を実現していくのが当社の目標です」
そう語るのは、2020年4月に明電舎から分社化した、明電ナノプロセス・イノベーション(以下、NPI)の取締役社長・髙田壽士だ。従来の事業領域にとらわれず、短期間で新しい価値を生み出すためには、オープンイノベーションを通して、半導体だけでなく、その周辺領域に関する社外の技術や人材、資本の活用が欠かせない。
「例えば、私たちが思いつかなかったような膜種が必要とされているかもしれない。そういったニーズを掘り起こすためのノウハウや、そのニーズに沿った製品を作るための技術を自分たちだけで確立するには大きな時間やコストがかかります。既存の概念に縛られることなく、全く別の領域の知見や人材を積極的に取り込むことで、より早く結実する可能性を高めようとしているのです。また、オゾン技術は半導体製造工程の成膜にとどまらず、新型コロナウイルス感染症対策で注目されている空間殺菌にも効果が期待されています。オープンイノベーションは私たちの技術や製品を世の中と結びつけるのに不可欠な取り組みなのです」
NPIの持つシーズをいかに短期間でソリューションにつなげるか。明電舎にとって、NPIの分社化とオープンイノベーションは、まさに挑戦的な試みといえる。
※ 基板や基材の表面に、用途に合わせた機能を持つ薄い膜を形成すること
未知との遭遇が生む
未来へのアプローチ
「これからの研究開発には、従来の概念にとらわれないイノベーションが求められると思います。当社は重電メーカーであり、今後もそれは変わりません。でもそれだけではだめで、“重電プラスアルファ”の新しい価値を生み出していく必要があるのです」
開発統括部長の佐藤は、研究開発を通して未来へのアプローチに挑んでいる。
「社内で集めたアイデアに未知の領域の知見を掛け合わせることで、新たな事業を生み出す、“未来開発”に取り組んでいます。例えば海外関係会社である明電アメリカのシリコンバレーオフィスを通じ、現地のスタートアップ企業との協働で当社が保有しない技術を取り込もうとしています。当社が持つ重電メーカーとしてのノウハウに、最先端のソフトウェアやAI技術を掛け合わせることで、新たな事業領域を開拓することが狙いです」
国内においても大学との包括契約や研究機関との協力により、新しい分野への取り組みを積極的に進めている。佐藤は「外部の技術や知見を取り入れることで、考え方に多様性が生まれることが何よりも大切です。明電舎という枠組みだけでは生まれないシナジーを、組織や国境も超えた外部とのつながりで生み出していきたい」と意気込む。
未来を形にするために
挑戦の日々は続く
最後に、これからも社会を支え続けていくために明電舎の研究開発に必要なことは何か、研究開発本部長の鈴木に尋ねた。
「技術は、それ自体が多様な組み合わせによって進化してきました。その組み合わせのための“経験”と、“科学的な洞察力”をいかに次代に引き継ぐかが重要になると思います。研究開発はいわば未来を形にする仕事。そのために、私たちはこれからも技術と真剣に向き合っていきます」
社会課題と向き合い、未来を切りひらいていくために、研究開発の重要性は今後ますます高まっていく。創業以来、連綿と受け継がれてきた技術への飽くなき探求心を羅針盤に、明電舎はこれからも歩み続ける。