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停電復旧の最短手順を算出するアルゴリズムを開発
多段融通にも対応、より広域な配電運用への活用に期待

2022年11月07日

【発表のポイント】
・ 停電発生時、周辺の供給余力を用いて早期に停電復旧するために、供給経路の切替手順を算出するアルゴリズム(計算手法)を開発。切替手順の最短性を理論保証。
・ 隣接する供給源の余力では足りず、離れた供給源の余力も活用する多段融通が必要な規模の停電であっても、アルゴリズムを適用可能。
・ 激甚災害に伴う大規模停電、ライフスタイル変容に伴う需要密度の変化など、より広域で高度な配電運用が求められる中で、系統事故時の自動復旧、系統混雑の解消、設備容量スリム化の計画業務など様々な場面へのアルゴリズムの活用が期待される。

【概要】
停電発生時、事故や故障が生じていない停電区間は、周辺の供給余力を用いて早期に停電復旧できることがあります。しかし、隣接する供給源の余力では賄いきれない規模の停電が発生した場合には、離れた供給源の余力も活用しなければなりません。これは多段融通と呼ばれ、停電が発生していない健全な需要区間にも供給経路の変更が生じる復旧方法です(図1参照)。多段融通では、制御対象となる配電系統は広域となり、加えて健全な需要区間も制御対象となるため、配電運用には困難を伴います。
この問題を解決するため、東北大学大学院情報科学研究科の伊藤健洋教授と鈴木顕准教授、京都大学大学院情報学研究科の川原純准教授、中部大学工学部の飯岡大輔准教授、株式会社明電舎による研究チームは、科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)「組合せ遷移」(*1)を契機として2020年より共同研究を開始し、停電復旧の最短手順を算出するアルゴリズムを開発しました。(特許共同出願中)。
本研究のアルゴリズムは、停電復旧に多段融通が必要か否かを判定し、いずれの場合にも、停電復旧を実行するための最短の切替手順を算出します。本研究では「組合せ遷移」と呼ばれる新しいアルゴリズム手法を用いることで、健全な需要区間への電力供給を持続しながら、停電復旧への最短の切替手順を算出することを可能としました。さらに本アルゴリズムを用いることで、多段融通の必要性および切替手順の最短性が理論保証されるため、数理的エビデンスを伴った停電復旧を可能とします。主にアルゴリズムの研究は東北大学と京都大学が行い、電力系統技術分野の研究は中部大学と明電舎が行いました。
激甚災害に伴う大規模停電やライフスタイル変容に伴う需要密度の変化など、可用性を担保しながら、より広域な配電系統を制御することが現代社会では求められています。本研究のアルゴリズムは、このような要請に応え、系統事故時の自動復旧や系統混雑の解消、設備容量スリム化の計画業務など、より高度な配電運用へ活用されていくことが期待されます。



図1 本研究の成果および多段融通の概念。
緑色と青色の供給源の余力を合わせても停電復旧には足りないが、健全な需要区間を黄色の供給源に切り替えることで、停電復旧を実行している。

(*1) 本研究において、東北大学、京都大学、中部大学の研究者らは、下記の助成を受けています。(課題番号: JP20H05793、JP20H05794)
科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)
「組合せ遷移の展開に向けた計算機科学・工学・数学によるアプローチの融合」
領域代表および計画研究A01班代表 伊藤健洋 (東北大学)
計画研究B01班代表 川原純 (京都大学)
https://core.dais.is.tohoku.ac.jp/


【詳細な説明】
研究の背景
電力系統のうち、需要地末端に電力を送り届ける配電系統設備は系統事故時の停電区間極小化のため、複数の経路から電力が供給できるように形成されています。配電系統には多数の開閉器(スイッチ)が存在し、それらの開閉状態を決定することで電力の供給経路が一つに決定されます。
系統事故により停電が発生した際、その原因となった需要区間の復旧には時間を要するものの、故障が生じていない停電区間は、周辺の供給余力を用いて早期に停電復旧できることがあります。しかし、隣接する供給源の余力では賄いきれない規模の停電が発生した場合には、離れた供給源の余力も活用しなければなりません。これは多段融通と呼ばれ、停電が発生していない健全な需要区間にも供給経路の変更が生じる停電復旧方法です。多段融通では、制御対象となる配電系統は広域となり、加えて健全な需要区間も制御対象となるため、配電運用には困難を伴います。

既存研究
停電復旧は重要な課題であり、実用面からの研究開発はもちろんのこと、アルゴリズム理論分野でも研究が進められてきました。しかし既存のアルゴリズム理論研究では、停電復旧できる供給経路を求めるのみであり、それを実行するための開閉器の切替手順は求めることができていませんでした。特に、多段融通は、健全な需要区間の供給経路を制御する必要があり、切替途中に、新たな停電を生むことは許されません。このような可用性を考慮した切替手順が、多段融通では必要とされます。実際、既存のアルゴリズム理論研究は、多段融通を要しない場合に限定して実施されることがほとんどでした。一方で、実用面からの研究開発では、可用性を担保した切替手順が算出されるものの、多段融通の適用範囲が限定されたり、切替手順の最短性が保証されなかったりしました。

本研究の手法
本研究では、停電復旧に多段融通が必要か否かを判定し、いずれの場合にも、停電復旧を実行するための最短の切替手順を算出するアルゴリズムを開発しました。はじめに多段融通を要するか否かを判定することで、迅速かつ周囲への影響が少ない停電復旧を可能とします。隣接する供給源の余力では足りず、多段融通を要する規模の停電であっても、健全な需要区間への電力供給を持続しながら、停電復旧への切替手順を算出することが可能です。さらに、多段融通の要否に関わらず、本アルゴリズムが算出する切替手順は、最小の切替回数で停電復旧します。
本アルゴリズムの開発には、大きく2つの技術が活用されています。一つは「組合せ遷移」と呼ばれる新しいアルゴリズム手法であり、健全な需要区間への電力供給の持続のように、可用性の担保を可能としています。もう一つは「ゼロサプレス型二分決定グラフ」と呼ばれるデータ構造であり、実行可能な開閉器のスイッチ構成全てを圧縮して保持することを可能としています。
本アルゴリズムによって、多段融通の必要性および切替手順の最短性が理論保証されるため、数理的エビデンスを伴った停電復旧が可能となります。ただし、実運用の場面では、配電系統の規模や計算機の処理能力に応じて、本アルゴリズムを近似的に利活用することも考えられます。そのような場合には、復旧手順を事後検証する支援ツールとしても、活用が期待できます。

本件及び取材に関するお問い合わせ先

株式会社 明電舎  コーポレートコミュニケーション推進部 広報・IR課
電話 03-6420-8100

停電復旧の最短手順を算出するアルゴリズムを開発(PDF:537KB)