- 見目
- 明電舎は鉄道や上下水道、電気、放送などインフラを支える電気設備のメーカーです。電気設備と一言でいっても大型の変電設備から、小型のモータまで、わたしたちの製品は多岐にわたります。それらの設備ひとつひとつを、安全に、長く使えるようにメンテナンスすることが、わたしたちの仕事です。特に大切なことは、故障してしまうまえに、その予兆となる異常を発見すること。これを、予防診断と呼んでいます。
- 元井
- 健康診断をイメージしてみてください。定期的に検診を受けていれば、万が一病気が見つかってもすぐに手を打つことが出来ます。インフラも一緒なんです。わたしたちの仕事は、いわばインフラの健康診断。みなさんの生活を支えているインフラが故障してしまったら大変ですから。
▲見目「メンテナンスで予防診断は特に大切な仕事。」
▲暮らしを支えている様々なインフラ設備
▲電気設備のメンテナンス装備
- 見目
- 江ノ島電鉄の、電気設備をメンテナンスしています。江ノ電には藤沢、鵠沼、七里ケ浜、鎌倉、計4カ所に変電所があります。そこにある電気設備をとおって、電車が走るための電気が届きます。そこが、わたしたちの現場です。設備には高圧の電気が流れているため、電気を切ってからメンテナンスを行います。
- 元井
- そのため作業は、終電から始発が動き出すまでの真夜中に行います。約3時間半。この短い時間で、暗闇の中、ヘッドライトと持ち込みの照明だけで作業します。また鵠沼の変電所などは、民家に隣接した場所にあるため、住民の方のご迷惑にならないようにコッソリと行います。
- 見目
- 電気に吸い込まれるって、わかりますか?通電している設備に手の平で触れてしまうと、ギュッとつかんでしまうんです。筋肉が収縮してしまって、なかなか離れない。まるで、電気に吸い込まれたみたい。でも実際には、そんなことはあってはいけない。事故を防ぐための仕事で事故を起こしたら意味がありませんからね。そのためメンテナンスの仕事では、十分すぎるほどの注意をして、作業を行っています。設備に触るときは、まず本当に電気が切れているか、検電棒を使ってチェックします。電気が流れていないことを確認した後も、ゴム手袋をして、さらに手の甲から触るんです。
- 元井
- 電車が走るために必要な変圧器と整流器。そして、トラブルが起きた時に事故を防ぐために必要な保護継電器、真空遮断器、高速遮断器の3つがあります。計5種類の設備で、毎日江ノ電の運行を支えています。
- 見目
- 発電所から来る高圧の電気を、変圧器で低圧に変換し、整流器で交流から直流に変換しています。江ノ電は直流の電気で走るんです。一方、保護継電器、真空遮断器、高速遮断器は、ブレーカーのように電気を遮断する保護装置です。保護継電器が電気の異常を察知して信号を出し、真空遮断器と高速遮断器が電気を遮断します。これらの設備が正常に働くか、故障につながる異常がないかを診断します。
- 元井
- 湘南の海沿いを走っている江ノ電の電気設備は、サビが出やすいんです。塩害というのですが、少しのサビも見落さないようにいつも目を光らせています。この塩害のように、その場所特有の異常が、どの現場にもあるんです。それをきちんと把握して見逃さないこと。わたしたちが、設備の安全を守る最後のとりでなんだという気持ちで、いつも仕事をしています。
▲電鉄用変電所の役割
- 元井
- 30kg~40kgもある試験器を、電気設備につないで行います。「電気にトラブルがありましたよ」というダミーの信号を送り、瞬時に正しく作動するかをチェックするんです。保護継電器や遮断器の試験では、電気が実際に切れるかどうかをチェックする必要があるので、試験をする部分にだけ止めていた電気を流して試験します。
- 見目
- メンテナンスでは、さまざまな装置を使いますが、わたしたち技術者の経験と五感が意外と重要なんです。腐食や劣化がないかを見極める目。異常な音がないのかを聞き分ける耳。異常な匂いがしないかを感じる鼻。その他にも微妙な振動に、故障の予兆が隠れているんです。あと、舌ですね。舐めてみるんです。電気設備はピリ辛味です。冗談です。よい子は絶対に電気設備を舐めたり、近づいたりしないでください。
▲試験や点検に使う機器
▲元井「多くの人々の生活を支えるインフラ設備は、安全であることが第一。」
- 元井
- 設備の延命処置があります。長く大切に使ってもらうためには、故障を防ぐだけでは足りません。部分的に消耗した部品を取り換えたり、足りない機能を追加したり、安定して使うことのできるインフラ設備として性能を維持していくんです。それでも、寿命を迎えてしまった設備は、新しいものにまるごと買い替えていただくように提案します。多くの人々の生活を支えていくインフラ設備は、やはり安全であることが第一条件です。
- 見目
- わたしたちは、多種多様な設備のメンテナンスを行います。そのため、古い設備から最新のものまで、あらゆる製品と技術について知らなくてはなりません。お客様によって設備投資の考え方はさまざま。古くなったらすぐに新しい設備に替えたいという方もいらっしゃれば、できるだけ長く使い続けたいという方もいる。だから、プロとして経験と知識をフル回転させて、お客様の考えを取り入れながら、的確なご提案をしたいと思っています。
▲サーモグラフィー診断事例
- 元井
- 活線診断という新しいメンテナンス技術があります。電気を止めずに行える点検方法です。自社でサーバーを持つ通信会社や病院などでは、24時間電気を止めることができません。そのような場所では、活線診断がとても有効です。
- 見目
- また活線診断は、実際に電気が流れている状態、つまり普段設備が稼働している状態を診断できるというメリットもあります。実際に稼働している状態で、サーモグラフィーを使って熱を読み取ったり、音や振動を読み取ることができます。直接設備に触れなくても、異常を察知することができるのもメリットです。
- 元井
- 新しい技術を使って、より確実なメンテナンスを行うためには、ぼくらの経験や知識がやっぱり重要になります。例えば、サーモグラフィーは、目には見えない熱を可視化してくれます。でも、設備が発しているその熱が高いのか、低いのか、異常なのか、正常なのか。それを最終的に判断するのは、エンジニア。技術はどんどん進化します。ぼくらもそれに負けずに日々進化する。その先に理想のメンテナンスがあると思っています。
▲「わたしたちのメンテナンスするインフラ設備が、みなさんの暮らしの安全を支えている。」
- 元井
- わたしたちは、インフラ設備のいちばん近いところにいます。つまり、明電舎のなかでも、みなさんの暮らしのいちばん近くにいるということです。明電舎製品の良さもわかるし、改善した方が良いところもわかります。そんなわたしたちだからこそ、納入後の設備の状態やお客様の声を、製品の開発部門に伝える事で、みなさんの暮らしを安全に支えることのできる、よりよい製品を生みだしていけるんです。
- 見目
- 電気はあって「あたりまえ」。そして、事故が起きないこと、安全であることが「あたりまえ」。その「あたりまえ」に気づくのは、実は何かが起こってしまったとき。わたしたちの仕事は、むしろみなさんにその「あたりまえ」を気づかせないように、守り続けること。みなさんの見えないところから、見えない安全を見守り続けることなのだと思います。江ノ電でもそうですが、わたしたちがメンテナンスを担当するインフラ設備の先には、いつもみなさんの暮らしがある。仕事に行く前はいつも、そのことを心に秘めて現場に入ります。
[2012年11月23日]