▲伊藤「重要なのは、私たちが暮らしている街で、スマートグリッドが実現できるかということ。」
- 伊藤
- 太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーを導入し、IT技術を用いた需給調整で電力の安定的かつ効率的な供給を実現する送電網のことです。それによって、地球温暖化、化石燃料の枯渇、災害時の停電リスクなどのエネルギー問題を解決しようというわけです。重要なことは、わたしたちが暮らしている街で、どのようにスマートグリッドを実現し、それらのエネルギー問題を解決していけるのかを具体的に示していくことだと思います。
- 宇山
- スマートグリッド実現に向けた社会システム実証実験を、横浜みなとみらいにある大型商業施設横浜ワールドポーターズで、今まさに行っています。実験のカギを握っているのは、スマートBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)。施設全体のエネルギー需給を効率化するための新しいシステムなんです。
- 宇山
- 空調や照明、発電機や蓄電池など、全てのエネルギー設備にセンサを取り付けています。エネルギーの運用状況をスマートBEMSがモニターするためです。それによって、エネルギーの使用(需要)を抑えたり、どこにどれだけのエネルギーを供給すればよいか、またどんな供給元を使うかなど、瞬時に判断しています。
▲横浜ワールドポーターズの屋上にある気象センサ
- 伊藤
- スマートBEMSは、数時間後、あるいは翌日やその先までを、つねに予測することで瞬時に的確な判断ができるんです。屋上の気象センサから収集した気象データに天気予報データを組み合わせて、空調設備がどの程度稼働するかを予測したり、過去の来客数や周辺で行われるイベントの情報などのデータも利用します。商業施設は、平日と休日で来客数が大きく違います。花火大会などのイベントがあればなおさらです。
- 宇山
- リアルタイムでエネルギーの運用状況をモニターするだけでなく、そこに精度の高い予測を加える。そうやって、つねに理想的な需要と供給のバランスを施設全体で実現し、エネルギーを効率的に運用していく。それこそが、スマートBEMSのいちばん重要な役割だと思います。
▲スマートBEMSでは、リアルタイムにエネルギー需給を制御できる。
▲屋上に設置されたリチウムイオン蓄電システムの前で語る宇山
- 宇山
- ひとつの方法としてピークシフトがあります。ピークシフトとは、夜間の安価な電力を蓄電池に蓄えておいて、電力使用量がピークを迎える昼間にそれを利用することです。営業時間帯の電力供給を補いながら、電気代を抑える効果もあるんです。スマートBEMSは、どれくらい電力を貯めるのか、貯めた電力をどこに、どのタイミングで使うのかを制御しています。
- 伊藤
- 屋上には、リチウムイオン蓄電システムを設置しています。容量は250kwh、出力は100kw。住宅約20軒分の供給力があります。これまでの蓄電池は、夜間に貯めて昼間に供給するだけのものでした。でもスマートBEMSによって、必要なときに必要な分だけ、リアルタイムで供給や充電を行うことができるようになるんです。
▲貯めた電気をうまく利用することで、ピーク電力を削減。
▲発電時の熱エネルギーも活用できるコージェネレーションシステム
- 宇山
- 横浜ワールドポーターズには、コージェネレーションシステムという自家発電設備があります。発電用エンジンで発生する熱を捨てずに、そのエネルギーを空調設備に活用することが特徴です。このシステムも、スマートBEMSとつながっています。要するに、スマートBEMSは、電気だけでなく熱エネルギーも効率的に活用しているんです。
- 伊藤
- 空調に必要なエネルギーをコージェネレーションシステムから供給する場合、熱エネルギーを利用する分、効率的です。あるいは、ピークシフトによって貯めていた電力が余っていれば、蓄電池から供給する場合もあります。そうすれば、電気代もガス代も節約できます。では、どちらがよいのか。スマートBEMSは、そのときそのときで施設全体のエネルギーを効率的に運用できる供給元を選択し、最適な需給のマッチングを行っているんです。
▲施設全体のエネルギーをコントロールするスマートBEMSの関連技術相関図
▲スマートBEMSが稼働する監視操作卓
- 宇山
- スマートBEMSによる最適な需給のマッチングを、街レベルで考えてみると、スマートグリッドの意義が見えてきます。例えば、スマートBEMSを活用しているオフィスビルと商業施設があるとしましょう。オフィスビルでは、土日は平日ほどエネルギーを必要としません。その余ったエネルギーを多くの来客でにぎわう土日の商業施設で活用すれば、より効率的ですよね。スマートグリッドを通じて、近隣の施設同士がお互いに状況をみてエネルギーを融通し合うようになれば、街レベルで需給の最適なマッチングが可能になるんです。
- 伊藤
- 明電舎は、電力会社の配電システムやメガソーラー、風力発電システムなどに携わってきた経験とノウハウがあります。それを活かして、さまざまなエネルギー供給元を上手く調和させれば、経済的な効率、環境面への配慮、停電リスクの軽減などの多くのメリットを提供できると思います。IT技術を用いるスマートグリッドにおいても、やはり基盤となるのはエネルギーインフラです。だからスマートグリッドをとおして、街とそこに住む人たちの生活に、明電舎が貢献できることはたくさんあると思っています。
▲「既存の設備を活かしてスマートグリッドに対応させることが、実証実験のポイント。」
- 宇山
- 横浜ワールドポーターズでの実証実験では、ひとつの施設を既存の設備を活かしながら、スマートグリッドに対応させるところがポイントです。今の設備や施設、さらには街を、まるまる新しいものに変えてしまうなんてことはできません。今の暮らしを大切にしながら、無理なくスマートグリッドに対応することに意味があると思います。未来の暮らしにも、今の暮らしにもかかわる仕事。そう思うと、この実験は本当にやりがいがありますね。
- 伊藤
- スマートBEMSのような新しい技術を用いて、ひとつの施設を変えていく。どんな施設でも、どんな街でもスマートグリッドに対応できるようになる。その先には、いろんな意味でみんなが理想とする暮らしが実現されていく。ぼくが描いているのは、そんな街の姿。自分が担当しているスマートグリッドプロジェクトは、エネルギーを通して未来の街づくりに貢献する仕事だと思います。
[2012年10月26日]