MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.13 移動変電所 7日で世界は変電できる。

移動変電所 開発担当者 変圧器工場 設計部 構造設計課 多々良 真己(左) 明電システム製造(株) 装置設計部 製作設計課 前田 正文(右)

発電所は、発電するところ。では、変電所は何するところ?作った電気を、使える電気に変えるところです。しかも今回登場するのは、動く変電所。その名も移動変電所。ちょっと変でしょ?いやいやそんなことありません。イラクを少しでも明るくするために、移動変電所が一役買っているんです。

明電舎の移動変電所がイラクで使われているというのは本当ですか?

多々良
本当です。イラクでは、いまでも1日に何回も停電が起こるんですよ。3度の戦争で電力インフラは大きな打撃を受けました。政情もまだまだ不安定で、新しいインフラ設備の建設は思うように進んでいません。そのような状況にあっても、暮らしていかなくてはいけません。
前田
電力供給の安定化は、国民の願いだと言えます。生活面ではもちろん、復興のためにも産業の活性化が必要です。イラクは産油国なのに、精製所が機能していません。それは、きちんと電力が確保されていないから。電力以外のインフラ整備にも産業復興にも、時間や資金、エンジニアなどの人材や技術力が足りていないんです。そこでまずは移動変電所ということになるんです。
イラクで活躍する明電舎の移動変電所 写真
▲移動変電所はトレーラーA(左)に、断路器、真空遮断器、変圧器を搭載。トレーラーB(右)に、制御盤・フィーダー盤を納めたキュービクルを搭載。

そもそも変電所って、どんな役割を果たしているんですか?

フィーダーを制御するコントロールパネル
▲フィーダーを制御するコントロールパネル
多々良
カンタンに言うと、発電所とご家庭や工場などを結ぶ役割を果たしています。発電所でつくられた高電圧の電気は、数カ所の変電所で降圧し振り分けられています。最終的にはみなさんのおうちにあるコンセントまで届く仕組みになっています。電気はつくるだけでは使えないんです。
前田
移動変電所も役割は同じです。2台のトレーラーに、断路器、真空遮断器、変圧器、制御盤、フィーダーと呼ばれる電気を降圧し振り分ける機器等が搭載されています。イラクで使われているものは、13万2000V(132kV)の電圧を3万3000V(33kV)または11500V(11.5kV)に降圧する2タイプです。発電所から流れてくる電気を変圧器で降圧し、制御盤とフィーダーで複数の送電線に振り分けているんです。
800世帯分の電機を供給

変電所と移動変電所の一番大きな違いはなんですか?

多々良「移動変電所には、建設工事が必要ありません。」 写真
▲多々良「移動変電所には、建設工事が必要ありません。」
多々良
移動変電所は、通常の変電所と違って、建設工事が必要ありません。柵や建物がいらない。それが一番の違いで、一番のメリットです。先ほど、イラクではいろんな資源が不足しているとお話しましたね。新しい変電所を建設するには、時間とコストがかかります。建設土木や電力関係のエンジニアと技術も必要です。移動変電所は、変電所として機能するだけでなく、それらの不足を補うこともできるんです。
前田
明電舎の移動変電所は、到着から7日で電力供給をはじめることができます。変電所を一から建設するよりずっと早い。建物を建てるための材料費も人件費もかかりません。必要な設備をすべて載せたトレーラーが到着したら、あとは送電網につなぐだけ。運営管理も少ない人数で可能です。

具体的には、イラクのどんな場所で使用されているんですか?

キュービクル内の温度上昇を抑えるための冷却ファン 写真
▲キュービクル内の温度上昇を抑えるための冷却ファン キュービクルは、断熱のため外壁が2重構造になっている。 写真
▲キュービクルは、断熱のため外壁が2重構造になっている。
多々良
イラク郊外の砂漠地帯ですね。日中の気温が55℃に達することもあります。電気設備は、稼働時にどうしても熱が発生します。加えて、砂漠地帯の強い日射で、機器は高温にさらされてしまう。だから、熱対策が重要なんです。
前田
使用している機器は、日本の変電所用の機器と同じですが、パッケージングを工夫しています。配電や遮断器などの機器はキュービクルと呼ばれる金属製の箱の中に。制御システムはプレハブのような部屋に設置。中にはファンを設置していますが、さらに外側の壁面を二重にし、空気の層をつくることで急激な温度上昇を抑えています。
多々良
変圧器には冷却用の絶縁油とその絶縁油を冷却する装置が装備されています。さらに、万が一、片方の冷却装置が停止してしまっても変圧器が使用できるよう、冷却装置は2系統に分けています。
トレーラーAに載っている、断路器、真空遮断器、変圧器、接地変圧器などの機器
▲変圧器には、絶縁油の温度上昇を効率的に冷却する工夫が施されています。

熱だけじゃなくて、砂も大変そうですが?

しっかりとシーリングされた絶縁油充填部 写真
▲しっかりとシーリングされた絶縁油充填部
前田
大変です。砂嵐が日常茶飯事だと、イラクの人が言ってました。しかも、砂がとても細かいのだとか。プレハブやキュービクルは砂が入らないように、要所要所に砂用のフィルターをつけています。
多々良
この砂対策も、明電舎の移動変電所がイラクで使われているひとつの理由だと言えます。移動変電所に使われる真空遮断器(エンジニアズノートNo8参照)は、メンテナンスが比較的簡単です。真空で絶縁するのでガスを交換する必要がありません。つまり、遮断器からガスを取り出す際に、砂が入るリスクがありません。

また、絶縁油充填部も、しっかりと密閉しています。砂が入るどころか、油がにじみ出ることもありません。さらに、外気に露出する充電部品には、重汚損環境仕様の部品を適用し、砂漠特有の砂が付着しても電気が飛ばないようにフラッシュオーバー対策しています。

メンテナンスもお二人がやられているんですか?

前田「移動変電所を使って、産業活性化に取り組めば復興の役に立つ。」 写真
▲前田「移動変電所を使って、産業活性化に取り組めば復興の役に立つ。」
多々良
実際は、イラクのみなさんがやっています。これまでに100人以上のイラク人エンジニアが、当社に来てトレーニングされていきました。製品を納入する前に、設置や運営管理について学ばれていくんです。品質だけではなく、こういった取り組みも喜ばれています。とても明るいんですよ、イラクのみなさん。移動変電所は、発電所と暮らしをつなぐだけじゃなくて、こんなところで世界と日本をつなげていたりするんです。技術協力はもちろん、彼らの宗教文化や価値観を知り、直に接することも信頼関係を築くうえで、大切だと感じています。
前田
ぼくらのつくる移動変電所は、砂漠の過酷な環境でも30年以上も壊れずに動いています。きちんとメンテナンスして使ってもらえれば、電力供給は安定します。そうすれば、その間に他のインフラを整備したり、産業活性化に取り組める。そういう意味でも、イラクの復興に一役買っているのかな。

今後は、イラク以外にも?

「ぼくらの仕事は、世界とつながっているダイナミックな仕事。」 写真
▲「ぼくらの仕事は、世界とつながっているダイナミックな仕事。」
多々良
日本のように電力供給が安定している国は、世界的に見れば小数かもしれません。これからはアフリカやアジア圏でも、ぼくらの移動変電所がお役に立てると思います。ちょっとずつ、でも確実に世界を明るく変えていけたらうれしい。ぼくらの仕事は、世界とつながっている実感がもてるダイナミックな仕事です。これから明電舎に入社してくる人たちとも、そういう仕事の醍醐味とか楽しさとか喜びを分かち合っていけると良いなと思います。
前田
新しい電力インフラの建設支援に加えて、自然災害後の復旧復興にも、移動変電所が役に立ちます。実際に、日本の電力会社も移動変電所を常備しています。電力供給が途絶えてしまうような状況でこそ、チカラを発揮できる移動変電所でなくては。その国の、その地域の、そこで暮らす人たちにとって、一番理想的な移動変電所がつくれれば、最高だと思います。

プロフィール 変圧器工場 設計部 構造設計課 多々良 真己(左) 好きな野菜:トマト 明電システム製造(株) 装置設計部 製作設計課 前田 正文(右) 好きな野菜:キャベツ

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