▲高橋「震災以降は、非常用電源としてのお問い合わせも増えています。」
- 高橋
- 2011年の震災後、復旧や復興のために使われていたことは、みなさんもご存知かと思います。むしろ、そのとき知った人の方が多いのかもしれませんね。震災以降、食料品の製造メーカーなどで長時間の停電が許されない企業が計画停電に対応するため、あるいは自治体など地域の非常用電源としてのお問い合わせも増えています。
- 加村
- もともとは、電線工事などで電気を停めて作業する際に多く使われてきました。そのため電源車を保有しているのは主に電力会社で、明電舎のシェアは70%に上ります。工事区間の電気をストップすると、その先に電気は流れなくなってしまうので、その電気を補うのです。それ以外の用途では、屋外イベントなど電源のない会場や、電源があった場合でも落雷などによる停電に備えて使われることがあります。
- 高橋
- トラックに発電機と燃料がのっています。充電された電源をのせて運んでいるんじゃありません。電気を必要とする場所で、発電するんです。発電機の容量は大きいもので最大出力1600kW。一般家庭約500世帯分をまかなえる電力です。この規模になると、発電機というより発電所をのせている感じでしょうか。
- 加村
- これだけ大容量の電力を供給するためには、大きな発電機と大量の燃料が必要になります。そうなると、重量も車両もどんどん大型になってしまう。そこで、発電容量を大きくする一方で、小型軽量化が必要になる。その他にも、街中で使用するためには、騒音や排気、安全性の問題を同時に解決しなければなりません。
▲移動電源車1台で多くの世帯の電力を供給できる
▲移動電源車の主な構成
- 高橋
- お客様のさまざまなニーズを、1台の移動電源車にすべて反映させていくと、その分容量や装置を増やすことになり大型で重くなってしまいます。わたしたちの強みは、そのトレードオフを解消して、ニーズを満たしながらできるかぎり小型化するパッケージ提案力にあると思います。また、そこが移動電源車の開発において、一番難しいことだと思っています。
- 加村
- まず純粋な軽量化の方法として、車体そのものの重量を軽くする方法があります。自動車会社にご協力いただいて発電機などの機器を置く床面をなるべく空洞化しました。また、移動電源車はエンジンで発電機を動かしますが、そのエンジンと発電機の素材を鉄ではなくアルミを使い、可能な限り薄くすることで軽量化しました。
▲加村「特にうるさく感じる高周波の音を低減させることで十分に効果があります。」
- 高橋
- 確かにうるさくなります。でも、そこに騒音低減のための工夫をしています。発電機自体は、防音材で囲まれているため外に音が漏れることは少ないです。ただエンジンは水冷式なので、オーバーヒートしないためにはラジエータ内の暖まった冷却水を空気で冷やさなければなりません。その空気を外から取り入れるため、小窓のようなものが必要になるのですが、騒音が外に漏れてしまいます。
- 加村
- そこでスプリッタ構造というハチの巣状の消音用のダクトをつけて、消音しています。消音するのは、主に高周波の騒音です。騒音はすべてをカットする必要はなくて、特にうるさく感じるものだけを低減させることで十分に効果があります。エンジンから出る排気を流すダクトからの騒音も同じような工夫を施して低減させています。
- 高橋
- 無停電切り替え機能というものがあります。電力会社が配電網の工事を行うときに、当該区間の電気を柱上開閉器によって止めます。開閉器は、電気を流したり止めたりする装置で、いわば電線用のスイッチです。電気が止まると、バイパスルートのない地域では、そこから先(下流)の配電網では電気が止まってしまいます。そこで移動電源車の登場です。移動電源車を使えば下流のどこの地域も停電なく工事が行えます。でも実は工事終了後が電機メーカーの本当の腕の見せ所なんです。
- 加村
- 工事が終わって再び電気をつなぐとき、開閉器より上流から流れてくる電気と移動電源車の電気、そして下流に流れる電気をうまくつなげなくてはなりません。電線を流れる交流の電気には、+(プラス)と-(マイナス)の波があります。その波がうまく一致しないと、電気はショートしてしまうんです。昔は、一度完全に停電状態にしてから、つないでいましたが、1986年に明電舎が開閉器の上流と電源車と下流をバイパスでつなぎ、停電時間を0にする方法を考案して、一般的になりました。
- 高橋
- ところが、その方法にもデメリットがありました。ひとつは、バイパスをつくるために配電網に接続するケーブルが6本必要になること。
1本20kg~30kgのケーブルが6本にもなると、重量の負担が大きくなります。ふたつ目は、バイパスをつくる関係で必ず開閉器のそばに移動電源車を停めなくてはいけないことです。せっかく移動式なのに駐車場所が限定されるのでは、効率も悪いですよね。 - 加村
- そこで、2004年に電力会社と共同開発したのが、無線同期復電装置です。この装置は、電気の波が完全に一致するまで、開閉器を作動できないようにするもの。電源車が電気の波長を一定時間合わせることで、開閉器を作動させるタイミングを簡単に見極められるようになりました。これによって、ケーブルも半分の3本で済みますし、何より停電を起こさなくて済むようになりました。
▲無線同期復電装置によって、配電網の工事の際、3本のケーブルのみで停電を起さずに工事ができるようになった
▲電力会社の納車70%は明電舎製
- 高橋
- 日本は、世界的に見れば、配電網も電力供給の安定性も優れています。停電も非常に少ない。でも海外に行けば、停電が日常茶飯事に起こる地域もあるし、そもそも電力が届いていない場所もたくさんあります。移動電源車は、そんな地域で十分に活躍できると思います。でも、そのためには、現地の生活環境をきちんと把握して、どのように移動電源車を活用していくか、しっかりと考えなくてはならないと思います。
- 加村
- 明電舎には、水質の浄化やプラント管理の技術もあります。移動電源車単体ではなく、それらと組み合わせることで、活躍の舞台は広がると思っています。安全な水を確保するためには、電力が必要です。水質の浄化やプラントを建設したり動かしたりするからです。でも、配電網が未発達なエリアでは難しい。明電舎は、発電設備や水処理施設をワンストップでつくることができます。その切り込み隊長が、移動電源車というわけです。
▲「これからは、災害に備えての利用が増えていくと思います。」
- 高橋
- 今までは、電力会社や通信会社などが、工事車両として所有しているイメージでした。でも、震災やその後の計画停電、復旧復興を経験された街や商店街あるいは自治体などが、地域社会のリスクヘッジの目的で所有されるケースも増えていると感じています。今後はより一層、増えていくと思います。
- 加村
- よりみなさんの近くで、みなさんの生活の安心を支えられる存在になってくれると嬉しいです。でもそうなってくると、できれば移動電源車が活躍しないことの方が理想的かもしれませんね。電力が安定的に供給されて、震災などが起こらなければいい。ぼくらは、そんなもしもがないことを願いながら、それに備えて最高の移動電源車をつくっていこうと思っています。
[2012年9月21日]