▲森「人は無意識に“運ぶ”動作をしていますが、実はとても複雑な事をしています。」
- 藪
- 無人搬送車(AGV)を英語でいうと“Automatic Guided Vehicle”つまり、「自動的に誘導される車両」。主に工場などの生産現場で材料や製品などを運んでいます。実は、明電舎がシェア日本一。国内では、自動車の工場やパルプ工場、そして小さな町工場や病院まで、幅広く使われています。
- 森
- 突然ですが、みなさんはどのようにして物を運んでいますか?たとえばお盆にのせてお味噌汁を運ぶ時。無意識に人は運んでいますが、実はとても複雑な事をしているんです。まずお味噌汁をどこまで運ぶのかを認識し、頭のなかで瞬時にルートを設定します。そしてそのルートを、こぼさないように安全な速度で進む。そして、目的地にたどり着いたら、だんだん減速して、テーブルの手前でピタッと正確に止まる。
- 藪
- 人間が無意識に行っているこのような行為は、「運ぶ」の理想形なんです。これほど複雑な事を機械で行うのは簡単ではありません。
▲使用される場所と用途によって、形を変えて活躍する無人搬送車
- 藪
- 大切なのは制御技術です。「決められた速度、加速度で走り、ピタッと止まる」、「ルートを正しく走行する」という主に2つの行為を、正確に行うための技術で、それぞれ、「速度制御」、「フィードバック制御」といいます。人はこれらの制御を無意識のうちに行っていますが、機械ではそうはいきません。
- 森
- どこからどれくらい加速し、どれくらいの速度で走るのか。どこからどれくらい減速すれば、目的地でちゃんと止まれるのか。AGVには、人が無意識に把握しているそれらの情報を、事前に与えています。大切なのは、どんなときも、情報通りの速度や加速度を再現すること。重いものを載せていれば、その分エネルギーが必要になりますが、そんな場合でも軽いものを載せている時と全く同じように走る。これが、速度制御です。明電舎のAGVはこの速度制御によって、まるで敏腕ドライバーが中に乗っているかのように走ることができます。
▲物を運ぶとき、人は無意識のうちにいくつもの情報を把握して速度制御を行っている。
- 森
- たとえば何段か段ボールを積んだ時、勢いよく加速してしまえば崩れてしまう。ゆっくり加速すれば崩れはしないが、運ぶのに時間がかかってしまいます。さらに運搬ルートには、たいていカーブがあります。カーブでは遠心力が発生し、荷物が崩れやすい。そのためカーブに差し掛かかる前には安全に減速し、抜けたら安全に加速しなければいけません。目的地が近付けば、崩れないように減速をして、ピタッと止まらなければいけない。
- 藪
- 正しい位置で止まることは、実はとても重要なんです。例えばまだ裁断していない紙を巻いたロール。大きいものだと1トンを超えるものまでありますが。これを持ち運ぶとき、AGVはロールの芯から出た、ごくわずかな軸部分にしか触れてはいけない。ここでピタッと止まる技術が必要になります。その部分に正確に潜りこまなければ、大切な紙を傷つけてしまうかもしれませんからね。AGVがミスをしてしまえば、工場のライン全てが止まってしまうかもしれません。そのため、明電舎のAGVの停止誤差は常に5mm以内で設計されています。
- 森
- ルート通りに走行するために必要となってくるのが、フィードバック制御です。みなさんは、1ミリのズレも無くまっすぐ歩くことができますか?きっとできる人なんていないですよね。ほんのわずかだけ、フラフラと左右に蛇行しながら歩いているはずです。周りのものとの距離感を測ったりすることで、常に自分の位置を修正しながら進む。これがフィードバック制御なんです。AGVもみなさんと同じようにフラフラと走っているんですよ。常に自分の位置を読み取りながら、正確な位置へとスムーズに修正しながら走っています。
- 藪
- ほとんどの明電舎のAGVには、レールやガイドがありません。そのかわりに、磁気の誘導テープを床面に貼ったり、レーザーの反射板を壁面に設置するなどをします。AGVはそのテープの磁気や、レーザーの反射を読み取り、自分の位置がずれていないのかを常に確認しながら進んでいきます。磁気テープやレーザーは、レールの代わりというわけですね。
- 森
- 制御技術は、人の「運ぶ」を理想とした技術でしたが、もちろん人に負けない技術もあります。人は24時間運び続けられないし、10トンの鉄の塊を運べる人は地球上にいません。AGVだと、充電時間以外は24時間稼働します。そして、最大30トンの荷物を運ぶことができる。ホコリを嫌う精密機器を作っているようなクリーンルームや、熱い空間。そんな場所でも、AGVは活躍しています。
- 藪
- 省スペース化に貢献できることも、AGVの特徴です。工場にあるベルトコンベアは、一度設置してしまうと、人が通れなくなったり他の産業車両が横切れなくなってしまいます。一方、AGVは固定されないためフレキシブルです。たとえばAGVが通った後を、フォークリフトが横切ったりすることができる。さらに、工場のレイアウト変更も楽にできます。日本の生産現場は、商品の移り変わりが早い分、レイアウト変更も頻繁に行われますからね。
▲藪「私たちは“運ぶ”のプロとして、最も効率のよい方法を編み出し、提案するのが使命です。」
- 藪
- 私達の強みは、提案力にあると思います。製品のつくり方というのは当然お客さんが一番よくご存じなんですね。工程には私たちの知らないような制限がたくさんある。まずは工場を隅から隅まで見てその工程を学ぶ。それから省けそうなムダや、効率化できそうな問題をあぶり出します。そして、その問題を解決するために必要なAGVの種類と台数を割り出し、活用方法も含めて提案する。また、ある時には森たち技術者に相談するんです。こんな課題を解決するためのAGVはあるのか?なければ開発できないのか。と。
- 森
- 明電舎のAGVの種類が豊富な理由は、ここにあります。藪たちが持ってくる「こんな物が運びたい」「あんな風に運びたい」という課題にたいして、新しく開発をする。その積み重ねが、AGVの種類の多さなのです。
▲「近い将来、ロボットのようなAGVが生まれるかも?」
- 藪
- 工場の中で、全く人がいないという状況はほとんどありません。現場の監督をする人、組み立てをする人、メンテナンスをする人。このように、AGVはこれまでも人に近いところにありました。けれどこれからは工場だけじゃない、もっと生活に近い所で活躍してほしいと思っています。介護だったり、教育だったり、ゴルフのカートかもしれない。きっとAGVはもっと人に寄り添うことができる。そんな関係を、想い描いています。
- 森
- 運ぶって、ムダなこと。私はそう考えています。部品を運んでも、組み立てなければ商品は生まれないし、食材をスーパーから家に運んできても、料理しなかったらただの食材のまま。運ぶことは、何も生み出さないんです。もし、全人類が運ぶことをAGVに任せることができたなら、人は作ることに集中できる。人にしかできないことがあるからこそ、AGVは人のような「運ぶ」ができるようにならなくてはいけない。いや、「人」以上ですかね。もしかしたら近い未来、漫画に出てくるロボットのようなAGVが生まれるかもしれませんよ。
[2013年1月25日]