MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.8 真空遮断器 わたしは、街のブレーカー。

送電網の電気の流れを、一時的に遮断する真空遮断器。せっかく流れてきた電気を、どうして遮断するのか?そこには、電気と暮らしをつなぐ理由と技術があるんです。

真空遮断器って、どんなものですか?

小松
ウニのような、ハリネズミのような、角。この特徴的なカタチをした装置が真空遮断器です。どこかで見たことありませんか?真空遮断器は、変電所や大規模工場などにあって、事故を防止するために使われています。例えば、落雷などで送電網に大量の電気が流れ込んだ場合。大規模な事故や停電が起こらないように、電気を一時的に遮断するんです。
竹下
言わば、街のブレーカーです。おうちのブレーカーは、100V(ボルト)の電圧に対応できればよいのですが、変電所では数万V~十数万Vという高電圧に対応しなくてはなりません。100Vの電気なら火花で済むことも、数万Vの高電圧にもなると大規模な火災事故になりかねない。真空遮断器は、真空のチカラを利用して電気を切ることで、暮らしの安全を守っているんです。
電気は、発電所から変電所を通って家庭に届きます。真空遮断器は変電所に設置されています。
▲電気は、発電所から変電所を通って家庭に届きます。真空遮断器は変電所に設置されています。

真空のチカラって、そんなにすごいんですか?

竹下「真空遮断器はメンテナンスやランニングコスト、安全面、環境面などもっとも理想的な遮断器。」
▲竹下「真空遮断器はメンテナンスやランニングコスト、安全面、環境面などもっとも理想的な遮断器。」
竹下
電気を遮断するときに重要になるのが、絶縁性能です。つまり、電気を通さないチカラ。真空は、空気に比べてとても絶縁性能が高いんです。遮断器の中には、真空インタラプタと呼ばれる筒状の装置が入っています。文字通り、この装置の中が真空になっていて、ここで電気を切るんです。
小松
実は、真空の代わりにSF6というガスを採用した遮断器もあります。このガスは真空に比べて絶縁性能は高いのですが、電気を遮断するたびに有害ガスが発生します。さらに、このガス自体が二酸化炭素の23,900倍の温室効果を持っています。そのため海外では、SF6の使用が法律で規制されている国も増えてきているんですよ。
竹下
真空なら、有害ガスは出ません。しかも、繰り返し10,000回は遮断できます。SF6だと、せいぜい2,000回。メンテナンスやランニングコスト、安全面環境面を比較していくと、真空の遮断器が現段階でもっとも理想的な遮断器であるとわたしたちは考えています。

どんな仕組みで、電気を遮断しているんですか?

竹下
最初にお話した特徴的な角。その先端が送電線とつながっていて、そこから電気が流れ込んでいます。異常がなければ、普段はそのまま電気が流れている状態です。角の根元には、BCTと呼ばれる電気をモニターする装置がついています。落雷などで異常な電気が流れ込むと、BCTが即座にそれを察知します。
小松
BCTが異常を察知してから、電気を遮断するまでの時間はわずか0.1秒。その一瞬の間に、数万V~数十万Vの高電圧で流れる電気を遮断することができるんです。それを可能にしているのが、明電舎の真空インタラプタです。BCTはあくまで監視専門。実際に電気を切るのはインタラプタというわけです。
真空遮断器の内部構造
▲真空遮断器の内部構造

真空インタラプタの中では、どうやって電気を切っているの?

真空インタラプタとアークを分散させるカタチの電極
▲真空インタラプタとアークを分散させるカタチの電極
竹下
真空インタラプタの中には、2つの電極が入っていて、通常は電気を流すためにつながっています。異常を察知すると、電極を引き離し、電気を瞬時に遮断します。いかに電極を速く引き離すかが、ひとつのポイントです。引き離し方にはいろいろな方法がありますが、明電舎では、強力なバネを利用することで、高速で電極を引き離しています。一見アナログな方法ですが、これが速くてしかも確実なんですよ。
小松
電極を引き離しても、電気は流れつづけようとします。そのときに発生する火花のようなものをアークといいます。このアークを消滅させて、はじめて安全に電気を遮断できたことになります。真空を利用するのも、このためです。さらにアークを消滅させる工夫は電極自体にもあります。銅とクロムで出来た強度の高い電極は、劣化しにくく、切れ目を入れてアークを分散させやすいカタチに設計しています。

どうやって真空インタラプタの中を真空にしているの?

竹下
インタラプタは、2つのフタの空いた筒を「ろう」で溶接して作ります。接着部分に固形の「ろう」をはさみ、高温(800℃~900℃)の炉に入れて溶かします。明電舎の製造法は、この炉をまるごと真空にすることで、インタラプタの中も真空にしてしまう方法なんです。
小松
それまでは、一本一本筒状のインタラプタから空気を抜いて真空にしていました。その方法では、量産が難しかった。でも、現在の方法では、1度に100本のインタラプタをつくることができます。実は、空間が大きければ大きいほど、真空状態をつくることが難しくなります。その意味で、世界に先駆けて大きな炉を真空にするこの製造法を考え出したことも、明電舎の強みだと思っています。
炉の高温で「ろう」が溶ける。同時に炉内を真空にするため、接着が終わるとインタラプタの中は真空になっている。
▲炉の高温で「ろう」が溶ける。同時に炉内を真空にするため、接着が終わるとインタラプタの中は真空になっている。

いつごろから、真空遮断器をつくっているんですか?

小松「100年にわたる歴史や責任が、やりがいにつながる。」
▲小松「100年にわたる歴史や責任が、やりがいにつながる。」
竹下
明電舎は1907年から遮断器を製造しています。真空遮断器が登場するのは、1960年代になってから。それまで真空の代わりに、油や空気を利用した遮断器を製造していました。真空インタラプタを遮断器に搭載するまでには、製造方法も含めて、先輩エンジニアたちが様々な試行錯誤を繰り返してきたんです。
小松
約半世紀にわたる技術的な蓄積が、現在の真空インタラプタ、真空遮断器を支えているのだと思います。わたしたちは、先輩方の積み重ねを受け継いで、さらに性能の高い、真空遮断器をつくろうとしています。100年にわたって日本の送電網を支えてきた遮断器。これからも、その役割は重要だと思っています。その歴史や責任を感じている分、やりがいのある仕事だと思っています。

真空遮断器について、今後のお二人の目標は?

「あまり知られていない分野ですが、精度の高いインタラプタつくりで、暮らしに貢献していきたい。」
▲「あまり知られていない分野ですが、精度の高いインタラプタつくりで、暮らしに貢献していきたい。」
竹下
複数の遮断器や真空インタラプタを同時に使えば、多量の電気を一度に遮断することが可能です。ですが、その分スペースもコストもかかってしまう。つまり、求められているのは「1点切り」。1台の遮断器の容量と性能の高さです。明電舎は、世界で初めて145,000Vの真空遮断器を製品化しました。今後はより高電圧の真空遮断器にチャレンジしてみたいと考えています。
小松
この分野は、みなさんにあまり知られていない分野です。でも、電気の安定供給や環境保全という意味で、暮らしとは切っても切れない関係にあります。わたしは真空インタラプタを主に担当していますが、もっと大きな容量に対応した、精度の高いインタラプタをつくりたいと思います。それによって、遮断器を小型化したり、安全性を高めたり、みなさんの暮らしに貢献していきたいと思っています。

エンジニアズノート プロフィール 明電T&D株式会社 スイッチギヤ事業部 盤用設計課 小松 秀樹(左) 好きなフルーツ:スイカ 明電T&D株式会社 スイッチギヤ事業部 設計課 竹下 幸宏(右) 好きなフルーツ:グレープフルーツ

[2012年7月27日]

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