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▲飯田「セラミックインサートは、隠れているけど様々な場所で役立っているんです。」
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▲明電舎のセラミックインサート製品群
- 柘植
- トンネルの天井や建設中の橋の側面に穴が空いているのを見たことはありませんか?あんまりそんなところ見ないですよね。でも、それがインサートと呼ばれるものです。一般的には金属製が多いのですが、わたしたちは、そのインサートをセラミックス化したのです。橋や道路、トンネル、堤防、地下・海底トンネル、鉄道に上下水道などの各種プラント。実は意外と身近なコンクリート構造物に埋め込まれているんですよ。
- 飯田
- その用途はいろいろあります。橋の建設工事や修繕工事のときに足場を吊るために使われたり、トンネルの中で道路部分を支えたり、照明、配管や耐火パネルを固定するために使われたり、堤防のブロックを運んだり、愛知万博ではリニアモーターカーの電車線を支持するのに使われたりもしました。隠れているけど、意外と役に立ってるでしょ?
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▲セラミックインサートコンクリート埋設断面
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▲セラミックアンカーコンクリート埋設断面
- 柘植
- コンクリート構造物に先にインサートを埋め込んでおくインサートと、あと付けできるアンカーの2製品があります。割合で言うとインサートが圧倒的に多いですが、アンカーは当社だけが製造している製品で受注も増えてきています。どちらも用途はほぼ同じで、小さいものは40mm、大きいもので116mm。明電舎製品の中ではとても小さな製品になります。
- 飯田
- セラミック以前は、主に金属製のインサートが使われていました。金属製のインサートにもいろいろと強みはあるのですが、錆びたり、高温に弱かったり、電気を通してしまったり、弱点もあります。セラミックには、金属にないメリットがあるんです。明電舎の多くの製品の中に、アレスター(避雷器)があります。実はコレ、セラミック製。その技術を応用して開発したのがセラミックインサートなんです。
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▲セラミックインサートの特徴
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▲橋梁工事
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▲東京国際空港D滑走路建設外工事
(提供:羽田再拡張D滑走路JV)
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▲首都高・中央環状品川線シールドトンネル
(北行)工事
- 柘植
- そうですね、いろいろとありますが、まずは耐食性でしょうか。酸やアルカリ、高湿度、海水などの悪環境でも、錆びたり、腐食しにくいんです。例えば、下水道。さまざまな排水が入り混じる下水道は、とても腐食が起こりやすい環境です。耐食性の高いセラミックが有効です。下水だけでなく、上水も含めた水まわりの多い場所でも役立つと思います。
- 飯田
- 最近では、羽田空港に新設されたD滑走路に当社のセラミックインサートが使われました。D滑走路は、周辺の環境および生態系維持のため、一部が桟橋になっています。その桟橋の建設工事にセラミックインサートが使われ、工事のための足場を吊ったり、将来の点検用にも埋めこまれています。桟橋のまわりは当然海に囲まれています。工事の後も桟橋に残るインサートが海水によって腐食すると、そこから橋の老朽化につながる恐れがあります。錆びないセラミックだからこそ、お役に立てたと思います。
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▲共同溝の使用例
- 柘植
- わたしたちのセラミックインサートには、アルミナという高純度なファインセラミックス素材を使っています。その硬度は、ステンレスや鋼の約6倍。ダイヤモンドに次ぐ硬さです。コンクリート埋設時には、20t以上のネジ山強度があります(M16サイズ)。融点も鉄に比べて500℃ほど高い。硬くて熱に強い。セラミックを割れやすいと思っている人も多いのですが、高純度アルミナは割れにくいです。耐久性でも金属製のインサートに負けませんよ。
- 飯田
- 熱に強いというのは意外と重要なんです。例えば、トンネルで火災事故が発生したとします。そのときトンネルの中は、1000℃を越える高温になります。鋼などは溶けないまでも、変形・歪み・劣化が起こりやすくなる。それに比べてセラミックは、そもそも製造の過程で1600℃以上の高温で2日間かけて焼成していますから、それぐらいの熱はへっちゃらです。現在では、首都高速や阪神高速の道路やトンネルで採用されています。
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▲柘植「“電食”が起ると鉄筋が錆びてコンクリートにひび割れが発生してしまう可能性があります。」
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▲リニアモーターカーには高い絶縁性能と高い耐久性のセラミックインサートが活用されている。
- 柘植
- 一番の違いは、絶縁性でしょうか。金属は電気を通します。電気を通すと何がいけないか。たとえば、鉄筋コンクリートにステンレス製のインサートを使用した場合、鉄筋とインサートが接触する可能性があります。そうすると、鉄筋からコンクリートに向かって電流が流れる「電食」が発生します。電食が起こると、鉄筋が酸化して錆びる。結果、体積がふくらんでコンクリートにひび割れが生じる可能性があるんです。意外と知られていませんが、ほとんどのコンクリート構造物は鉄筋を使っているので、避けて通れないポイントなんです。
- 飯田
- 愛知万博のリニアモーターカーに当社のセラミックインサートが使用されたのも、この絶縁性能と高い耐久性があったからなんです。将来的にリニアが実用化された際には、セラミックの絶縁性能と磁気を帯びない特性を持つセラミックインサートが何らかの形で貢献できると思っています。いつか自分たちのセラミックインサートが、みなさんを乗せたリニアを支えるそんな光景を夢に見ています。
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▲仙台湾南部海岸堤防復旧工事
- 柘植
- 最近では、仙台湾南部海岸堤防復旧工事の現場で使われています。近くに仙台空港があります。ここは、東日本大震災の津波で数十kmにわたる堤防が崩壊しました。新しい堤防は、壊れにくく粘り強い構造で流されにくい堤防です。新しい堤防に使われるコンクリートブロックは、工場で生産して現場に運びます。セラミックインサートは、ブロック運搬用に埋め込まれているんです。
- 飯田
- 完成する堤防は、ほんとうにすごいと思います。数十年、数百年の間に発生する大きな津波を想定して、その被害を最小限にする努力が詰め込まれている。セラミックインサートの役割は、その耐久性・耐食性を十分に発揮して、少しでも長くこの堤防が完成したままの姿で残るようにすること。もちろん、インサートだけでできることではありません。でも、この仕事に携わることができてほんとうによかったと思っています。
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▲「セラミックインサートでインフラを強くして、これからの日本の暮らしを支えていきたい」
- 柘植
- わたしは毎日セラミックインサートを製造しています。わたしにできることは、良いセラミックインサートをつくること。それだけです。硬度の高い耐久性に優れたセラミックインサートを、あと加工でつくるためにはダイヤモンドの工具を使って削りださなければなりません。でもそうするとコストが高すぎます。わたしたちは、あと加工なしで正確なネジ山を持ったセラミックインサートをつくることができます。陶芸をやられている方ならわかると思いますが、毎回正確に同じ形をつくることはとても難しいんです。アルミナ粉体を型に供給し、特殊な方法で成形しています。その後、炉で高温で焼成すると、製品は、4割くらい小さくなる。いまの精度を出すのに、開発から数えて十年ほどかかりました。これからもっと世の中にこの製品が普及することを願っています。
- 飯田
- 近年は、いろんな出来事が重なり、インフラの耐久性がいままで以上に問われる年になりました。道路や橋は普通に使えるもの。それがある日突然壊れるということは、普通の暮らしがある日突然壊れるということです。インフラは耐久財とはいえ、消耗していく。カタチあるものは、いつかは壊れる。インフラが長く使えることは経済的な側面はもちろん、そこで暮らし続ける人たちにとって、とても価値があることだと思います。インフラからもう1度この国を強くしていく。それが、これからわたしたちがやらなくてはならない本当の仕事だと思っています。炉で焼かれているセラミックを見ると、こっちまで燃えてきます。焼きあがった姿は、わが子のよう。この子たちに、これからの日本を、これからの暮らしを、これからの家族を、しっかりと支えていってもらいたいと思うんです。