MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.3 エレベータ駆動システム その巻き方、ジェントルメン。

エレベータに乗るとき、エレベータのことを考えたことはありますか。どんな高いビルでも、ボタンを押すだけでラクラク。そんな便利な乗り物の裏側で、明電舎のPMモータとインバータが、こっそり活躍しています。

明電舎のエレベータ駆動システムは、どんなところに使われていますか?

山田 「毎年2000台くらいのエレベータに関わり続けています。」
▲山田「毎年2000台くらいのエレベータに関わり続けています。」
牧野
エレベータは今や乗らない日のほうが珍しいくらい身近な乗りものです。明電舎のエレベータ駆動システムは、戸建て住宅、マンションから高層ビルまで、様々なエレベータで使われています。上海環球金融中心ビルや六本木ヒルズでも、明電舎のシステムが使われています。様々なメーカーのエレベータに搭載されているので、みなさんが乗ったエレベータの中にも、明電舎のシステムを使ったものがあったはずですよ。
山田
明電舎の駆動システムが使われているエレベータは、世界で5万台以上。私は、毎年2000台くらいのエレベータに関わり続けています。自分が携わったエレベータは、音とか乗り心地とかでわかる時もありますね。今日これからお話することは、話しかけづらい上司とエレベータで鉢合わせした時の会話のネタになるかも。

開発時に、重要視していることは?

ビル内高速エレベータの内部構造
▲ビル内高速エレベータの内部構造
牧野
乗り心地ですね。実は、人間ってとても敏感なんです。エレベータが動き出す時、ブレーキを外すと一瞬エレベータの「カゴ」が、少しだけ上下します。それが0.3mm、およそコピー用紙3枚分上下しただけで、人は乗り心地が悪いと感じます。そんな鋭敏な感覚をもった人を乗せるエレベータにとって、乗り心地はすごく重要な品質です。
山田
40年位前のエレベータは今よりすごく乗り心地が悪かった。ブレーキを外して動き出し、一気に加速、急ブレーキをかけて停止。人間は、縦の動きと加速度の変化に、特に敏感です。だから、ガクンと動きだしギューンと加速し、ガンと止まる昔のエレベータは決して乗り心地が良くなかった。でも、モータとインバータに工夫を凝らした明電舎のエレベータ駆動システムなら、エレベータをスムーズに動かすことができて、乗り心地はとっても快適です。

乗り心地を良くするために、モータに工夫したこととは?

▲40極の磁石がついたモータの回転子
▲40極の磁石がついた回転子とモータの構造
牧野
高いビルの中で、何トンもの重さを静かに素早く持ち上げるモータ。明電舎は、その回転子部分に永久磁石を使うPMモータで、力持ちなのに小型・軽量なシステムを作り上げました。実は、この永久磁石を貼る数や形状が乗り心地を良くするための秘策の1つなんです。
山田
どんなモータでも、回転時にトルクリプル(脈動)が生まれてしまいます。トルクリプルが多いと、エレベータは脈動が増えて乗り心地が悪くなる。明電舎のエレベータ用PMモータは、回転子の周りに磁石が40極(40列)貼り付いています。この数が多過ぎても少な過ぎてもトルクリプルに影響があるんです。さらに、1つ1つの磁石の形状は、かまぼこ型にしました。こういった工夫で、トルクリプルを大幅に抑えました。

乗り心地を高めるためのインバータの役割って何ですか?

インバータ制御による滑らかな速度制御
▲インバータ制御による滑らかな速度制御
牧野
先ほどもお話しましたが、人間は縦の動きと加速度の変化に、特に敏感です。インバータはモータの回転数をコントロールして、エレベータを滑らかに起動、加速、停止させています。インバータがないと、昔のエレベータのように、急起動・急加速・急停止して、乗り心地が悪くなってしまいます。
山田
例えば、車の坂道発進。ブレーキを外した途端、車が下がらないように、かつ急発進しないようにアクセルを微妙に調節しながら発進させますよね。インバータはその微妙なアクセルの踏み加減と同じようにモータの回転数を細かくコントロールして、エレベータが滑らかに起動・加速できるようにしています。明電舎のインバータは、皆さんが上下動に気付かないくらい微細な調整を行えるんです。

乗り心地の他にも、重要なことはありますか?

牧野「信頼性の高い駆動システムをつくらないといけない。」
▲牧野「信頼性の高い駆動システムをつくらないといけない。」
牧野
人が乗るものだから、安全であることが絶対条件です。エレベータは、年に約50万回上下すると言われています。10年間なら約500万回。150mのビルなら、最大で75万kmも移動することになります。その間、もちろんメンテナンスを行ったりもしますが、大きな故障が起こらない、高い信頼性が必要です。高いビルの最上部にある駆動システムを一度取りつけたら、取替えは不可能なんです。
山田
75万kmという移動距離は、他の乗りものにも引けを取らないくらい長いと思います。距離だけでなく、運転回数もエレベータは多いです。スタートとストップを、1時間で180回繰り返し行える性能が求められます。製品開発時に、約2000万回も動作を繰り返して、信頼性試験を行う部品もあるんですよ。このようにして、エレベータの安全で安定した運転を支え、みなさんが安心して乗ることのできる高い信頼性を保っています。

日本以外の国のエレベータにも関わっているんですか?

明電舎のシステムは世界の高層ビルでも使われている。写真は「上海環球金融中心」(101階・高さ492m)
▲明電舎のシステムは世界の高層ビルでも使われている。写真は「上海環球金融中心」(101階・高さ492m)
牧野
僕は今中国にいますが、エレベータ需要は高いですね。経済が急成長していますから、あちこちで高層ビルの建設が進められています。今や間違いなく中国は世界最大のエレベータ市場です。これからは、都市部から内陸部へと、その需要はますます広がっていくと思います。高層ビルはもちろん、中層・低層・個人宅用まで、明電舎は幅広い駆動システムをつくっているので、中国市場には積極的にアプローチしているところです。
山田
中国だけでなく、世界中に明電舎の技術を広げようとしています。この前トルコに行ったのですが、新しいビルなのに日本の40年前のエレベータに乗っている感じでした。まだ世界の多くの国では、経済発展でエレベータの台数はすごく増えているのに、技術レベルは追いついていない。これからはそういった国にも、明電舎の技術を役立てて、世界中の人に乗り心地が良くて安全なエレベータに乗ってほしいと思います。

これからエレベータはどうなっていきますか?

新しいエレベータでみんなの暮らしを広げていきたい。
▲新しいエレベータでみんなの暮らしを広げていきたい。
牧野
僕は趣味と仕事を兼ねて、いろんなエレベータに乗りに行きます。最近も、中国の高層ビルにいきました。高速エレベータは、耳がキーンとなるくらいスピードが速いものもあります。その意味でスピードの競争は、もう終わりにきていると思います。これからのエレベータに求められるのはスピードよりも、メンテナンスしやすい構造や機器の小型・軽量化といった要素です。安全性と乗り心地を維持しながら、使いやすい製品を創る努力を続けていきます。
山田
エレベータって今は上下にしか動かないものですが、そのうち横とか全方位自由自在に移動できるものを作れればいいなぁと思います。実はエレベータ技術が進歩したからこそ、高層ビルが建てられるようになった側面もあるんです。だから、新しいエレベータを開発することは、建物や街、私たちの暮らしを広げていくことでもあるんです。私にとってエレベータはそんな夢の乗りものでもあるのです。

エンジニアズノート プロフィール 明電舎(杭州)電気系統有限公司 牧野 洋三(左) 好きなフルーツ:パイナップル コンポーネント事業部 電動力応用事業開発部 山田 幸治(右) 好きなフルーツ:メロン

[2011年9月23日]

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