▲長谷川 「太陽光発電は、発電効率が一番重要。」
- 長谷川
- いま明電舎では、山梨県米倉山に10MWのメガソーラーを建設しています。2012年1月に運転を開始する予定です。この発電所は、山梨県と東京電力が共同で取り組み、明電舎はその基本設計から試運転にいたるプロジェクト全体を一括で請け負っています。発電所は完成したら終わりではありません。長い間、効率よく安定的に電気をつくり続けることができて、初めて役に立つものですから。
- 権
- 太陽光発電所にとって、効率はとても重要だと考えています。安全でクリーンな発電環境をもっているメガソーラーですが、普及のカギを握っているのは、発電効率です。発電効率が高くなれば、その分電力供給を安定させることができる。ぼくたちの開発した太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)は、プラント全体の発電効率を高めるために重要な役割を担っているんです。
- 長谷川
- PCSは、直流の電気を交流に変換する装置です。パネルでつくられる電気は、直流なんです。でも、おうちのコンセントは交流。だから、パネルで発電した電気を家庭で使うことのできる電気に変える必要があるんです。
- 権
- 電気は、物質を通過するときに、必ずロスが生まれます。もちろん、PCSで直流電力を交流電力に変換する時も。いかにそのロスを小さくするかが重要です。現在のパネルの発電効率は十数%。その限られた電気を少しでも無駄にするわけにはいきません。明電舎のPCSの変換効率は、約98%。これは世界でも、トップクラスの変換効率です。
▲メガソーラー発電所(太陽光発電所)における電気の流れとエネルギーロスの数値
▲権「明電舎独自のスイッチング技術で変換効率を高めています。」
- 権
- 変換効率を高める最大の工夫は、明電舎独自のスイッチング技術です。スイッチングとは、PCSの中で半導体素子を使って電気のプラスとマイナスを一秒間に何千回も切り替えて、直流を交流に変換する技術です。スイッチングの回数は変えずに、一部の素子を交代で休ませることで電力ロスを減らしました。
- 長谷川
- PCSを設計する際、構成する部品選定も効率を上げるために欠かすことができません。PCSが故障したら、太陽光発電所は機能しなくなります。PCSの故障リスクを回避し、稼働率を高めることは、そのまま発電所全体の効率を高めることにつながるのです。
▲日本初のメガソーラー発電所(北海道稚内市)
▲明電舎のPCSは、世界トップクラスの変換効率。
- 長谷川
- 太陽光は、不安定な資源です。曇って光が少なくなれば、パネルの発電量は小さくなります。天候によって電気のとれ方が微妙に変化するんです。そんな場合でも、その時々で最大の電力がとれるように、PCSがパネル側の電圧をコントロールしています。それを最大電力追従制御(Maximum Power Point Tracking、以下MPPT)と言います。
- 権
- 例えば、400V仕様のパネルで 仮に100という電力がとれるとしましょう。太陽が雲でかくれてしまうと、とれる電力の量が90になったり80になったり不安定になる。そのとき、PCSが電圧を401V、402V、や399V、398Vとコントロールすると、90が91、92と増えていく。つまり、とれる電力が最大になるように、電圧をコントロールして追いかけて制御すると言う技術。PCSって「考える」ことができる装置なんです。
- 長谷川
- イメージで言うと、ラジオのチューニングに似ています。ラジオ局の周波数は決まっているけど、状況に応じて聞こえやすい周波数にあわせるような感じです。MPPTは、交流変換の前に行っている制御ですが、これもメガソーラーの発電効率を高めるためにPCSが果たしている重要な役割なんです。
▲米倉山のメガソーラーのPCSも明電舎のもの。
- 権
- PCSの変換効率が高くなるほど、資源の無駄使いが減ると考えています。大容量で高効率のメガソーラーがもっと普及すれば、再生可能エネルギーによってまかなえる電力の割合が高くなるからです。PCSの変換効率という数字で考えると、たかだか1%と思うかもしれません。ですが例えば、30MW級のメガソーラーで、年間10,000世帯分の電力を供給するプラントを建設した場合、その1%は100世帯分になります。メガソーラーが増えるほど、その1%の重みは増していきます。
- 長谷川
- 数年前まで、一般的なPCSの変換効率は約90%程度でした。それが現在は98%。これからは、99%、99.9%と限界まで高めていきたいと思っています。変換効率を高めることは、一定の土地でつくられる電力量を高め、その分、土地資源の有効活用になります。さらに、CO2を排出しない太陽光発電がもっと普及すれば、クリーンで安定した電力を届けることができます。その意味で、変換効率も重要な資源だと思うんです。
▲ブルガリアで建設中の太陽光発電所(合計25MW予定)
- 長谷川
- 明電舎のPCS技術は、日本だけに限らず中国やヨーロッパなど各国の規格に適合しています。中国では、日本の企業として初めて「金太陽認証」を取得、ヨーロッパでは、「EN(European Norm)」、「CE(Comunite Eurpeen)Marking」に適合しており、これらすべてに適合しているPCSメーカーは、国内では明電舎だけです。
- 権
- 規格だけでなく、性能でも世界に負けないと思っています。でも、まだまだ日本のPCSの知名度は高くありません。これだけの規格に適合していても、ぼくらはまだスタートラインに立ったばかりだと思っています。もっと性能の高いPCSを開発する自信はあります。世界との本当の勝負は、まだまだこれからですよ。
▲2人が目指すのは、世界のエネルギーを支えていくこと。
- 権
- 太陽光発電の先進国と言えばドイツです。でも、パネルの開発は、日本の方が先だった。それなのに、太陽光発電という分野では、抜かれてしまいました。技術者としては悔しいです。ぼくにできることは、まずPCSの性能で世界No.1になること。太陽光発電で、メイドインジャパンをもっと世界に発信したいですね。
- 長谷川
- PCSは、発電所全体から見れば、単なる1つのパーツに過ぎません。でも、大きな責任を背負ったもっとも重要なパーツだと思います。日本のエネルギー自給率を高めていくためにも、PCSの性能を高める必要があります。PCSで、これからのエネルギーインフラを支えていく。ぼくらの仕事には、そんな責任とやりがいがありますね。
[2011年10月21日]