MEIDEN Engineer’s Note(明電 エンジニアズノート):No.6 セラミック平膜 汚水を、お水に。

わたしたち人間が生きる上で絶対に欠かせない水。生活や経済活動の中で汚してしまった水を、キレイな水にするセラミック平膜。今回は、素材や浄化の仕組みまで、洗いざらい話してもらいました。

明電舎と言えば電気というイメージがありますが、水処理との関係は?

野口「セラミック平膜は明電舎がこれまで取り組んできた事業の延長線上にあるもの。」
▲野口「セラミック平膜は明電舎がこれまで取り組んできた事業の延長線上にあるもの。」
中川
確かにそうですね。社名の通り、電気に関連する事業がほとんどです。その中には、下水処理場などの電気設備もあります。日本で最初の下水処理施設の建設に関わるなど、明電舎と水処理にはとても長くて、今でも深い関係があるんです。
野口
これまで取り組んできた事業の延長線上に、新しいビジネスチャンスを見つけたという感じです。セラミックを加工する技術も、もともと電気設備の絶縁体や避雷器などにセラミックをつかってきたことで磨かれました。セラミック平膜は、生活排水や産業排水をろ過清浄するためのもの。あまり知られていませんが、明電舎には電気設備だけでなく、こんな製品もあるんです。

セラミック平膜は、どんなところで使われているの?

中川
家庭から出た汚水は、下水処理場を経て、川や海へ流れていきます。工場などでは、独自に水処理設備を持っている場合もあります。ろ過膜は、それらの水処理施設で水をキレイにするために重要な役割を果たしています。ろ過膜を通過することで、汚れた水はキレイな水へと生まれ変わるんです。
野口
明電舎のセラミック平膜も、下水処理施設や工業排水処理設備のろ過水槽で、活躍しています。セラミック平膜の内側には水の通り道があって、ポンプで水を吸引すると、汚れだけがろ過清浄されます。そして、キレイになった水だけが、そのすき間から川や海へ流れていきます。これを吸引ろ過方式と呼んでいます。
セラミック平膜の活躍の場、下水処理施設のろ過層の例。
▲セラミック平膜の活躍の場、下水処理施設のろ過層の例。

明電舎のセラミック平膜の特徴は何ですか?

大きなセラミック製品をつくるのは、意外と難しい。
▲大きなセラミック製品をつくるのは、意外と難しい。
野口
明電舎のセラミック平膜は、厚さが6mmくらいあります。ペラペラな膜ではありません。薄すぎても厚すぎても、ろ過性能や耐久性に支障が出てしまいます。試行錯誤の末、やっとこの厚さにたどり着きました。素材が陶磁器なので、叩くとコンコンと音がします。見た目はただの板ですが、表面には目では確認できないくらい細かい穴が無数に開いています。その穴が水だけを通し、汚れをろ過しています。
中川
一番の特徴は、単位面積あたりの水を流す能力(フラックス)がとても高く、多くの水を一気にろ過できること。そして、1枚の平膜の大きさは高さ1m、幅26cmもあります。高フラックスで、これだけの大きさのセラミック製平膜は明電舎にしか作れません。実は、大きなセラミック製品をつくるのって、意外と難しいんです。焼付けの時に割れたり曲がったりしてしまうから。

どうして加工が難しいセラミックで膜をつくるんですか?

膜の内部に水を通して水の汚れをろ過していきます。
▲膜の内部に水を通して水の汚れをろ過していきます。
中川
ひと口に生活排水・産業排水と言っても、その汚れは溶剤や油、化学物質、硬い固形物などさまざま。加えて、水処理には、薬品が使われることもしばしば。つまり、膜の強度や耐久性、薬品や熱に強いことが重要になるんです。セラミックは、硬くてとっても丈夫です。破断の心配もありません。薬品や熱にも強いため、長時間の稼働にも耐えられるし、膜そのものも長寿命にすることができます。
野口
セラミックを使うメリットは他にもあります。メンテナンスが簡単で省エネなんです。使い続けると、膜自体も汚れます。セラミック製なら、それを洗浄するために、水の流れを逆流させて膜表面の汚れを取ることができます。これを逆洗と言います。さらに、高圧洗浄や薬剤を使った洗浄ができるのも、セラミックの強度と耐久性があってこそ。平らな形状もメンテナンスを楽にしてくれます。また、膜の細かい目がつまらないようにするために、膜表面に流している膜洗浄エアも他の素材に比べて半減できるんです。

セラミック平膜と環境との関わりを教えてください。

中川「リサイクルできる素材で作られたセラミック平膜は環境にやさしい。」
▲中川「リサイクルできる素材で作られたセラミック平膜は環境にやさしい。」
中川
セラミックという素材は、使い終わったら他のセラミック製品に加工することができるという利点があります。リサイクルですね。その意味で、明電舎のセラミック平膜はエコロジーだと言えます。
野口
製品自体もエコロジーですが、化学物質などを自然に流さないという点で、セラミック平膜の果たす役割は、生態系と深く関わっています。簡単にいえば、川や海を薬品や溶剤など有害な汚れから守っているということです。その他にも、生活排水にはリンや窒素などの有機物が多く含まれていて、それらをそのまま海に流してしまうと、海が栄養過多になってしまうんです。実は、これが原因で赤潮が発生することがあります。セラミック平膜は、川や海などの自然を汚さないという役割だけでなく、もっと大きな意味で生態系を守っていると思います。

これからどんなところに需要が広まっていきそうですか?

シンガポールの実証プラント
▲シンガポールの実証プラント
中川
国内では下水処理場や工業排水の処理設備で使われていますが、これからはやっぱり海外でしょうか。現在は、シンガポールや中国でプロジェクトを進めています。シンガポールは、国家として水の自給率を高める取り組みに力を入れ、世界中からいろんな技術を集めています。明電舎のセラミック平膜を使って、水をリサイクルする試みもその国家プロジェクトのひとつです。
野口
明電舎がすでに実証試験を行っている中国も、近年の急速な経済発展の影響で、工業地帯の水の汚れが年々深刻化し、水質保全が急務になっています。さらに工業化が進めば、よりいっそう高い処理能力が求められる。明電舎のセラミック平膜を使ったろ過清浄の技術は、そんな地域に暮らす人たちの役に立つと思います。

今後セラミック平膜で、どんなことを実現したいですか?

「水で困っている人を1人でも減らしていくことが、仕事。」
▲「水で困っている人を1人でも減らしていくことが、仕事。」
中川
展示会などでセラミック平膜の性能をアピールすると、いろんなところから「これは処理できる?」といった具合で水のサンプルが送られてきます。それを1つ1つ分析して、実際に処理できるか検討していく。逆に言えば、まだまだぼくらがキレイにできる水が世界中にあるということ。水で困っている人を1人でも減らしていくことがぼくの仕事だと思っています。
野口
排水の水質は、国によってあまりにも異なっています。シンガポールは、排水に含まれる油の量がとっても多かった。つまり、その国にあった下水処理のシステムが必要だということです。開発から販売までをトータルに関わる。それによって、その地域が本当に必要としている下水処理システムを提供する。それが大事です。世界は水でつながっています。汚したら、ちゃんとキレイにして返さないと。結局ぼくら人間が困ってしまいますからね。

エンジニアズノート プロフィール 水・環境事業部 中川 彰利(左) 好きなフルーツ:オレンジ 水・環境事業部 野口 寛(右) 好きなフルーツ:ドラゴンフルーツ

[2012年1月27日]

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